ロードバランサーとは
EdgeOS は標準で WAN へのロードバランサー機能を搭載してお り、パケットのルーティング先を予め指定した方法でインターフェイスごとに振り分けることができます1。たとえば複数の回線を契約しているような逸般の誤家庭で負荷をそれぞれに分散させたり、一方の回線が利用できなくなったときにもう一方の回線に自動で切り替えたり、といったユースケースがあります。
この記事では So-net 光 を契約している我が家(VDSL )で、フレッツ光の PPPoE 方式による接続と v6 プラス を EdgeRouter から利用しつつ、v6 プラスが利用できないときに PPPoE 接続にフォールバックさせるように設定してみます。
v6 プラスのデメリット
v6 プラスを利用している場合、特定のポート番号を使用するサービスが IPv4 で利用できなくなります。しかしながらこの記事の方法を使用すると、EdgeRouter からルーティングされるパケットをロードバランシングから除外することで PPPoE がそのまま利用できるため、L2TP や IPsec などを引き続き利用することができます。
So-net による v6 プラスの説明では以下のようにサービスの制約として説明されています2。これは v6 プラスが一つのアドレスを複数のユーザーで共有するサービスであるため、特定のポートを専有することができないことに起因する問題です。
「v6プラス」をご利用の場合、「固定IPサービス」は利用できません。
※PPPoEのIPv4を有効化いただくことでご利用可能です。 (詳しくは「v6プラス」 (IPoE方式でのIPv4通信))を無効にする (または有効にする) 方法を知りたい)
また、以下に該当するサービスについても、ご利用いただけない場合があります。
- 特定のプロトコル (PPTP、SCTP) を利用するサービス
- 利用可能なポート番号が制限されているため、特定のポートを使うサービス
- IPv4グローバルアドレスを共有するネットワークでは利用できないサービス
環境
EdgeRouter | |
モデル | EdgeRouter X 5-Port |
EdgeOS | v1.10.9 |
Linux | ubnt 3.10.107-UBNT |
| |
モデル | |
バージョン | v2.54 |
| |
モデル | |
バージョン | v18.35 |
構成
v6 プラスに対応したルーターは JPNE のメーカー確認機種一覧3を参考に用意します。
接続
EdgeRouter は eth0 から VDSL モデム、eth1 から v6 プラスルーターに直結しています。
VDSL モデム と v6 プラスルーターは別々のサブネットになるように構成します。
PPPoE 接続時のルーティング
この構成で PPPoE に接続するときは次の経路でルーティングします。
EdgeRouter(192.168.1.1/24)→ VDSL モデム(192.0.2.2/30)→ IPv4
v6 プラス接続時のルーティング
v6 プラスで接続するときは次の経路でルーティングします。
EdgeRouter(192.168.1.1/24)→ v6 プラスルーター(192.0.2.6/30)→ IPv6
この経路では IPv6 へのカプセリングが v6 プラスルーターで行われるため v6 プラスルーターの WAN 端子以降は IPv6 パケットになります。 VDSL モデムと v6 プラスルーターに正しいグローバル IPv6 アドレスが割り振られている必要があります(通常は問題ありません)。
ロードバランシングを行う場合はこのようにサブネットを各ルーターで分離しておかないと正しくルーティングされないので注意が必要です。
PPPoE の設定
フレッツ光の PPPoE 接続に必要な設定を行います。ロードバランシングには使われず、EdgeRouter から直接インターネットに出る場合に使われる設定です。 MTU と MSS の設定がフレッツ光の場合は別途必要なので注意が必要です4。
$ configure
$ set interfaces ethernet eth0 pppoe 0 password ****************
$ set interfaces ethernet eth0 pppoe 0 user-id ********************
$ commit; save
ルーティング・テーブルの設定
続いて、ロードバランサーが使用するルーティング・テーブルを定義します。
ここでは table 1
を PPPoE 接続に使用するルーティングとして next-hop
に VDSL モデムに設定し、 table 2
を v6 プラスの接続に使用するルーティングとして next-hop
に v6 プラスルーターに設定しています。このほか VPN 接続などの個別のルートがある場合はそれぞれのテーブルに設定します。
$ configure
$ set protocols static table 1 description PPPoE
$ set protocols static table 1 route 0.0.0.0/0 next-hop 192.0.2.2
$ set protocols static table 2 description v6plus
$ set protocols static table 2 route 0.0.0.0/0 next-hop 192.0.2.6
$ commit; save
ロードバランスの設定
先ほど定義したルーティング・テーブルをロードバランサーに設定していきます。
ここでは WAN_FAILOVER
という名前でロードバランシングを定義し、それぞれのインターフェイスに該当するルーティング・テーブルを設定しています。 eth0
に failover-only
を設定することで、EdgeRouter にルーティングされてきたパケットには普段は eth1
に設定された v6 プラス用のルーティング・テーブルが使用され、eth1
が使用できない場合に eth0
の PPPoE 接続にフォールバックするようになります。
また lb-local
の部分を enable
に変更すると、EdgeRouter 自体がインターネットに接続する経路にもこのロードバランサーを使用するように指定できます。上述の通り v6 プラスでは VPN などのサービスが使用できなくなるため、特有のポート番号を使用するサーバーを使用している場合は無効にする必要があります。
$ configure
$ set load-balance group WAN_FAILOVER interface eth0 failover-only
$ set load-balance group WAN_FAILOVER interface eth0 route table 1
$ set load-balance group WAN_FAILOVER interface eth1 route table 2
$ set load-balance group WAN_FAILOVER lb-local disable
$ set load-balance group WAN_FAILOVER lb-local-metric-change disable
$ commit; save
ファイアウォールの設定
最後に、定義したロードバランサー WAN_FAILOVER
をファイアウォールのルールに設定します。
ここでは eth1
の配下にあるクライアントからのパケットをロードバランシングの対象にしていますが、他のインターフェイスや switch0
などでも正常に動作します。
$ configure
$ set firewall modify LAN_PBR rule 10 modify lb-group WAN_FAILOVER
$ set interfaces ethernet eth1 firewall in modify LAN_PBR
$ commit; save
最後に
EdgeRouter は現在のところ MAP-E に対応していないため、v6 プラスに対応させるためには別の対応ルーターを繫いだほうが簡単にセットアップできます。このようにロードバランサーによる構成で運用すると、v6 プラス側でトラブルがあったときにも PPPoE で接続されるためダウンタイムを十数秒程度に抑えられます。
一方でヤマハのルーターの中には MAP-E に対応している機器もあり5、タグ付 VLAN を用いて PPPoE と v6 プラスへの振り分けを行うような構成も行えるようです6。